心奪われる程 … ありす

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気が付いたらいつも・・・そう、おまえのことばかりで頭がいっぱいになっちまう。
昨日より今日、今日より明日はもっと好きになる。









「土浦くーん、こっちこっち」
「悪い、待ったか?」
「大丈夫だよ。私もさっき着いたところだから」
「そっか。んじゃ、行こうぜ」

香穂を促し、俺達は手を繋いで並んで歩き始めた。



夏休みに入ってから二人で色んなところに遊びに行っている。
映画、サッカー観戦、花火大会・・・。
香穂と出掛けるごとに思い出が増え、親密度もぐんと上がっていく。

そんな俺達が今日向かった先は、市立図書館。
ここでお互いの宿題を持ち寄って、分担して片付けちまうのが目的だ。
こんな時、改めて普通科同士っていうの、いいよなって思う。


「ん?どうかした土浦くん」
「いーや、何でもねーよ」

見つめる視線の先に、香穂がいることが嬉しくて。
宿題、つまりは勉強するんだとわかってても、それが香穂と一緒だと悪くないって感じるんだ。

繋いだ手に少し力を込めると、香穂がそれに気付いて笑顔をくれる。
真夏の太陽よりも眩しく見えて、俺の体温が心なしか上昇していくようだった。









「わ・・・結構人いるね。自習室空いてるかな」
「行ってみようぜ」

図書館の二階は資料を調べるのに利用する他、自由に使えるテーブルと椅子が用意されてる。
だが、それ以外にも幾つか個室になっている自習室があって。
その奥に空室を見つけて、中に入ってホッとした。

「良かったね、いい場所空いてて」
「そうだな。あまりこっちの方まで皆来ないのかも知れないな」
「ふふ、そうかも。じゃあ、早速始めよっか。土浦くんの残ってる宿題ってどれ?」
「ああ、俺は・・・」

向かい合って席に着き、抱えている宿題を教えあう。
俺が既に終わらせてる教科は香穂の苦手なものだったらしく、嬉しいと言って喜んでいる。
たまたまだけど、香穂の役に立てたんなら良かったぜ。

やっぱイイとこ見せたいと思うだろ?
それが彼女なら、特に・・・さ。


「ありがとう土浦くん。それじゃこっちの方は任せてね」
「頼りにしてるぜ?」
「うん、頑張る!」

笑ってそう宣言した香穂に俺も負けてられないよな。
・・・さ、集中してやっちまうとするか。

そんなわけで、いつしか俺達は真剣に問題へ取り組んでいった。






・・・静かだな。

一つ、また一つと黙々と宿題を終わらせて俺は思った。

ここは図書館だし、そもそも喋って騒ぐ場所じゃないのはわかってる。
だけど香穂とこんなに静かな中で二人きりになるの、初めてじゃないか?

ふと、俺はペンを止めて香穂を見つめた。
俺の視線に気付かないで、問題を解いてはノートにさらさらと書き込んでいく。

この時何気なく見た、今日の香穂の服装。
ノースリーブのヒラヒラしたもんがくっついたキャミソールにミニスカート。
色の白い香穂に良く似合ってるって思うぜ。
制服とはまた違った可愛さに、見てるこっちが照れちまう。

そんな香穂の、時折長い髪を掻きあげる仕草が、妙にその・・・大人っぽくて。
ドキッと胸が高鳴った途端、顔を上げた香穂と目が合う。


「どうしたの?土浦くん。何か私の顔についてる?」
「いや、そうじゃない。髪・・・さ、随分伸びたよな」

出逢った頃より、また長くなった香穂の髪を指差して言った。

すると毛先を指に巻きつけてくるくると遊んでいた香穂が、突然俺に向かって手を伸ばす。
驚いて固まったままの俺の髪に、優しくその指で触れて来たんだ。

「土浦くんは変わらないね。短いそのヘアスタイル、すごくカッコいいよ」
「・・・そうか?」
「うん。あ、でも意外に髪は柔らかいんだね。ふふ、新発見しちゃった」

机越しに身を乗り出してきた香穂の顔がすぐ近くにあって。
吐息さえ伝わってくるこの距離で、俺の好きな笑顔を見せるから。

ガタン、と。
椅子から立ち上がった俺に、今度は香穂が驚いて。


「・・・土浦、くん?」
「悪い、ちょっと休憩。外の空気吸ってくるわ」
「あ・・・」


短く言い残し、一人自習室を後にした。









「はー・・・」

俺は外に出て思い切り深呼吸を繰り返す。
頭を冷やそうと思って出てきたんだが、まだ顔が熱い。
近くにベンチを見つけてそこへ腰を下ろした。


さっき・・・香穂が俺のすぐ傍に来た時のことが目に焼きついて離れない。

髪に優しく触れる指、ほのかに香る甘い匂い。
それから、服から覗けそうになった胸元。
白い肌がリアルに感じられて眩暈さえ起こしそうだった。

「ヤバイって、マジで・・・」

あと一歩近付いたら、香穂の全部を抱きしめられそうな距離。
二人きりの個室、目の前には、好きな女。

踏み込みたい気持ちを何とか抑えたが。
あれを無意識でやるんだもんな、まったく困った彼女だぜ・・・。


どうしてこんなに誰か一人を好きになれるんだろう。
サッカーとピアノ以外、興味の持てるものなんかなかった、俺が。

心ごと、奪われる。
おまえを想うと何も手に付かなくなる・・・重症だな。

香穂、おまえのこと・・・すごく好きなんだ。
それこそ、俺の一生を掛けてもいいくらいに。


その彼女をいつまでも一人放って置くわけにもいかないな。
そろそろ戻るとするか。

「よっと」

ベンチから立ち上がって歩き出した時だった。




「あの、私急いでるんですけど」
「だから少しだけ、ね?いいじゃん」
「私・・・人を探してる途中で」
「図書館で君みたいな可愛い子に会えてラッキーだったな。ね、遊びに行っちゃおうよ」

何だ、こんなトコでナンパかよ・・・。
どうやら図書館の裏手から聞こえてくるようで。
しつこい感じの男の声が気になった俺は、図書館へ入ろうとした方向を変えて裏手に回ってみる。


「ホントに、あの・・・困るんですけど」

か、香穂・・・!?


どうしてここに・・・、って単純に考えりゃわかることだ。
戻って来ない俺を探しに、だろ?
それでこんな野郎に捕まっちまうなんて、くそっ完璧俺のせいじゃねーか・・・!

拳をぎゅっと握り締めてつかつかと歩み寄る。


「一体誰をそんなに探してるのさ。大体君を放っておく方が悪いんじゃないか」
「悪かったな!!」
「・・・は?」

振り向いた男は俺の顔を見てギョッとして立ちすくむ。
そりゃそうだろ、怒って今にもぶん殴っちまいそうなんだぜ。
俺は刺すような視線で男を睨みつけていた。

「土浦くんっ」
「・・・こいつにまだ何か用ってんなら俺が相手になるぜ」
「べ・・・別にっもういいよ!」

男は慌てて俺達の前から逃げ出すように駆けて行ってしまった。
俺の後ろでホッと胸を撫で下ろす香穂を、人目もはばからず抱きしめる。


「ごめん!俺がおまえを一人にしてなきゃ、こんな・・・」
「土浦くん・・・私のこと怒ってないの?」
「はあ?どうして俺がおまえを怒んなきゃいけないんだ」
「だってあの時、私が土浦くんの髪を・・・触ったから、気分悪くしちゃったのかなって」

俺は香穂が全然的外れなこと言うからさ。
思いっきり吹き出しちまったんだ。


「あー、何それ。何で笑うの〜?」
「は、ははっ・・・悪い悪い」
「それに・・・なかなか帰って来てくれないし。私寂しかったんだよ」
「・・・ごめんな」

そう言って俺は着ていたシャツを脱いで、香穂の肩から掛けてやる。
俺の大きいそれは香穂をすっぽりと包んじまうくらいだが、この際いいだろ。

「これ・・・」
「いいから着てろって。つかさ、気になるんだよ。それから・・・少し、目のやり場に困る」
「もしかして、さっき土浦くんが出て行ったのって・・・」

ようやく気付いて、みるみるうちに顔を赤くしていく。
俺のシャツの前をしっかり合わせ、しどろもどろで。

「服からその・・・見えそうだった、ってことだよね。ちゃんと教えてくれれば良かったのに〜!」
「そんなこと言えるかよ・・・」

だけど言葉が足りなくて香穂を一人にさせちまったことは反省してるんだ。
もっとちゃんと口に出して、気持ち伝えていかなくちゃな。

香穂の優しさに甘えてばかりじゃなくて。
俺からも香穂にめいっぱい・・・してやりたい。

そうすることで笑顔を見せてくれるなら、いくらでも。




「これからどうしようか?まだ宿題残ってるよね」
「ああ。だけどもう勉強する気起きないな。このままどこか遊びに行こうか?」
「ホント?いいの?」
「おまえの好きなところ、どこでも付き合ってやるぜ」
「わーいっ!」

無邪気に喜ぶ香穂を見てるとさ、俺も楽しくなってくるんだ。

愛しさのカタチは目に見えないけれど。
俺と香穂を結ぶ音色はいつでも甘く奏でられて心に響く。

その音色を辿ればいつだっておまえがいる。
大切な、おまえが・・・。



「さ、行こうぜ。香穂」
「うん」

また新しい思い出を作りに、俺達は夏の空の下を行く。


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このお話は誕生日を無視した(笑)、思い切り普通の創作です^^
普通の高校生が過ごす夏休みの一日・・・。
それを土浦くんと一緒に楽しんでいただけたらと思います**

企画発動から今日まで、土浦くんとたくさんの時間を共にしてきました(笑)
とても幸せで、貴重な経験をさせていただけて嬉しいです。
愛好会の皆様、本当にありがとうございました。

最後になりますが、やっぱりシメの一言はコレでしょうっ。

『土浦くん、Happy Birthday〜〜!!』


それでは!!




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