いつだってそばにいる … さきと 
(4.甘やかな痛み…続きです)

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今すぐにも伝えたい。
この気持ちを。

日野…

逢いたいんだ。
おまえに…


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結局俺は朝まで携帯を握り締めたまま窓の外を眺めていた。

一度心に灯ってしまった期待。
もう、俺は自分の気持ちを抑える事なんて出来ない。
たとえ…友達という関係が崩れたとしても。
俺は、おまえを手に入れたい。


あんなにも悩んでいた自分が嘘のように、今はすっきりとしている。
俺が生を受けたこの日、あいつを手に入れる。
一度決めてしまえば、後は答えを出すだけ。
もう、後には戻らない。


約束の時間よりも、だいぶ早く到着しちまった。
まぁ、いいさ。
あいつを待つ。そんな時間さえ嬉しいんだからな。

俺は待ち合わせの場所に選んだ近所の公園で、まだ誰もいないブランコに座っている。
そりゃそうだろう、今の時間は朝の8時だ。
いくら夏休みだといっても、この時間から遊んでる子供なんていやしない。
まぁ、だから選んだってのもあるんだけどな。

5分位経ったか?約束の時間より20分も早いのに…
あいつが息を切らしながら走ってくる姿が目に入った。

「はぁ…っ、ご…ごめんっ…ね!」
俺の目の前まで来た日野は、右手を胸にあて、大きく肩で息をしている。
「そんな走らなくても、俺は何処にも行きやしねーよ」
下から見上げる日野の顔は、走ってきたせいだろう幾分頬が赤らんでいる。
そして呼吸はまだ荒いままだ。

その姿は、今すぐにでも抱きしめたくなる衝動にかられる。
俺は軽く息を吸い込み、ゆっくりと息を吐く。
自分を落ち着かせる為に。

ブランコから立ち上がると、幾分息が整ってきた日野を促し近くにあるベンチへと座った。
「悪いな、朝早くから呼び出しちまって」
膝の上で組んだ自分の両手を見つめながら、日野へと話しかける。
「ううん、そんなことないよ。私も逢いたかったし…」
日野はどんな顔をしているんだ?逢いたかったと言った時の表情が気になる。
ほんの少し横を向けば、日野の顔を見る事が出来るのに…
何かに体を縛られているかのように、向く事が出来ない。
ガラにもなく、俺は緊張していた。
話さなければ…俺は決めてきたんだ。
そう、日野を手に入れると。

喉が異様に渇く。
声を出そうにも、からからに乾いた喉からは言葉が出てこない。

「あっ、そうだ!あのね、土浦くんに誕生日プレゼント持ってきたんだ♪お誕生日おめでとう!」
日野が俺に向かって小さな袋を差し出した。
そのきっかけで、やっと俺は日野の顔を見る事ができた。
袋を受け取ると、中で何かがカサリと動いた。
「開けてもいいか?」
「うん、どうぞ」
小さなリボンを崩さないように、そっと袋を開ける。
中から出てきたのは、音符が連なったストラップだった。

「へへっ、これ見つけたとき土浦くんにあげたいなっておもったんだ」
照れたように笑う日野が可愛くて。
思わず出そうになる手を、ストラップを握り締めることで抑える。
「土浦くん?…気に入らなかった…かな?」
何も言わない俺が、ストラップを気に入らなかったと誤解してしまったようだ。
俺は慌てて声を出す。
「いや!違うんだ!その、嬉しくて…ありがとう、日野。大事にする」
こんな時に、もっと気の利いた事が言えない自分が情けない。
なのに日野は沈みかけていた表情をぱっと輝かせて、嬉しそうに笑ってくれる。
「よかった〜」

その時、きらっと光る何かが日野のスカートのポケットからチラッと見えた。
それは日野の携帯で…そこについているのは、同じストラップ?
俺の視線に気付いた日野は、慌てて手で携帯を隠した。
「あっ…あの…えっと…わっ、私もう帰るね!プレゼントも渡せたし。うん、それじゃあ、また…」
立ち上がろうとした日野の手を掴み、俺は力いっぱい自分の方へと引っ張った。
「きゃっ!」
倒れこんだ日野を、力いっぱい抱きしめる。
「ちょっ…土浦…くん?」
日野は顔を真っ赤にさせている。

「好きだ」
腕の中の日野がビクッと動いた。
「ずっと、好きだった。おまえが傍に居ないと、俺は不安なんだ。どうしようもなく臆病になる…
おまえが他の奴と…そんな事考えるだけでどうにかなっちまいそうなんだ。もう、友達のままは嫌だ。
おまえは…俺の事をどうおもっている?聞かせてくれ、頼む」
一気に喋り、喉が張り付くくらい乾く。
期待と不安。
俺の心臓は壊れるんじゃないかってくらい、早鐘を鳴らす。
きっとこの音は、日野にも届いている。

どのくらいの時間が経ったのか。
俺にとっては数十分にも感じるくらい長い時間だった。けど、実際は数秒程度だったんだろうな。

日野の口が開いた。
「私も…好き…」
小さな声。消えてしまうんじゃないか、そんな小さな小さな声だった。
でも、俺にはしっかりと聞こえた。

どっくん、どっくん。
この音は日野の音なのか、自分の音なのか。
そんな事すらわからない。
ただわかるのは、俺と同じくらい日野の心臓も音を立ててるって事だ。
でもな、俺は今緊張なんかよりも喜びの方が上回ってるんだぜ。
やっと、手に入れた。
俺の…俺だけの…

「香穂…好きだ…もう、離れない。これからはいつだって傍にいる。おまえも、俺から離れないでくれ…」
「うん…」




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「あの…土浦くん。そろそろ離してもらえないかな〜、なんて…」
俺は今も香穂を腕に抱きしめたままいる。
やっと手にいれたんだ、そんなすぐ離してなんてやるもんか。
「嫌だ。離れたくないんだよ、俺が」
香穂は赤い顔が更に真っ赤になった。
「土浦くん〜〜〜!!」

これから先が楽しみだぜ。なぁ、香穂。



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「甘やかな痛み」の続きでございます〜
目指せ甘あま!だったのですが、いかがでしたでしょうか?
とてつもなく偽者チックな土浦ですが(汗)
幸せ目指しました〜

えぇっと、URAは…無理でした(苦笑)
まだまだ土浦でXXX書くだけの勇気も技量もなかったです…
キスすらしてない、うん。健全(笑)
香穂ちゃんといつまでもラブラブってくださいね〜♪
大好きです〜

最後までお読みくださってありがとうございました!


さきと




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