甘やかな痛み … さきと

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夏休みに入りあいつと合える時間が減り、俺は改めてあいつの事を想う自分に気付いた。
『まだ休みに入って数日しかたってねぇのに…顔を見れないだけでこんなにも不安になるなんてな』
もしかして、この休みの間に誰かが日野と付き合う事になったら…
そんな事ばかり頭をよぎる。
「らしくねぇな…」
ふと漏らした自分の声がやけに部屋に響いた。
この気持ちを消し去りたくて、締め切っていた部屋の窓を開ける。
昼間の熱気を含んだ夜風が、冷房で冷え切った部屋へと流れ込んでくる。
そう、まるで日野のように。

日野は俺の心に流れ込んだ暖かな風だった。
冷え切っていた心を、優しく暖めてくれた。
俺は、その風に包まれる事の気持ちよさにいつしか癒されていた。

他愛もない会話。
ふざけ合う時間。
最初はよかったんだ。
ただ、気の合う男友達で満足できていた。
俺以上に仲良さげな男なんて、いなかったから。
でも、コンクールが進むにつれてあいつの周りは変わっていった。
他の参加者と一緒にいる時間が多くなる。
あいつが他の誰かに微笑んだり、話しかけたり…そんな些細な事にさえ反応してしまう自分がいた。

俺の中で大きくなり続けるあいつの存在。

あいつに触るな。
話しかけるな。

そんなちっぽけな独占欲が、俺の中でくすぶり続ける。
なのに「好きだ」の一言が言えないなんてな。
本当、らしくない。

この関係を崩す事を恐れている自分。
俺だけのものにしてしまいたい。
だが、拒絶されたら?
それが怖いんだ…

不安・愛しさ・嫉妬

こんな感情が心を支配していく。
たかが数日顔を見ないだけで…
つくづく自分が情けなくなるな。

だが…
こんな気持ちに支配されている今、俺の心にいるおまえを想うだけで暖かな風が流れるんだ。
誰にも見せる事の出来ない、俺の醜い感情。
こんな感情すら、おまえを想うだけで甘やかな痛みに感じてしまう。

「日野…」
声に出したその時、傍らに置いていた携帯が短く鳴った。
液晶画面には「新着メール」の文字が浮かぶ。
いつもどおり画面を開くと、そこには…

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Happy birthday!

一番におめでとうが言いたくて、メールしちゃいました。
もしこのメールで起こしてしまったら、ごめんね…
土浦くんがこの世に生まれてきてくれた事に。
そして、出逢えた事に。
感謝します。

特別な日だから…
ほんの少しだけ、土浦くんの特別になれたらな…なんてね。
ごめん!気にしないで!!

また今度時間のある時に曲合わせてね。

おやすみなさい。
 
素敵な一年になることを、心から祈っています。


香穂子


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思いもよらないメール…
自分の誕生日すら忘れていた。
そんな事より!
これって…
俺は期待しても良いって事なのか?
確かめたい。
今すぐにでも逢いたい。

逸る気持ちをメールに託す。



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ありがとう。
誕生日なんて、忘れてたぜ。

今日、逢えないか?


梁太郎


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うん。もちろん!
楽しみだな♪


香穂子


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伝えたい、この気持ちを。

「好きだ」

俺が生まれた今日、俺はおまえと一緒に新しく生まれ直したいんだ…



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土浦くん、お誕生日おめでとう!
緑髪のトップバッター梁太郎♪
相変わらず悩む君を書いてしまうけど…大好きですよ(笑)
幸せムードいっぱいは、続きで味わってね。

はじめまして、会員NO.1のさきとです。
兄貴な土浦も好きですが、悩む青少年の土浦も好きなもので、
ついつい虐めてしまいました(苦笑)
でも折角のBD!
幸せに浸ってもらいたいので、続きを書きました〜
6 「いつだってそばにいる」に続きます。
良かったらそちらもお読みくださると嬉しいです♪


最後までお付き合いくださり、ありがとうございました!

さきと


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