「可愛い君」






火原先輩に「誕生日何が欲しいですか?」と聞いたけど、先輩の返事は
「俺、君のその気持ちだけで充分だよ♪」
なんて返された。
でもここで引き下がれないよ!
だって、大好きな火原先輩の誕生日なんだもの。
先輩に喜んでもらいたい。
物が駄目なら、何か先輩が喜んでくれるような事を…そう!サプライズだよ!
まずは、男の人が何を喜ぶかリサーチしなくちゃね。

えっと…
あっ、いたいた♪

「土浦くーん!」

廊下を歩いてる土浦くんを発見。

「日野…おまえ声デカすぎだ」

髪をかきあげながら土浦くんは振り向いた。

「ごめん、ごめん」
「で、何か聞きたいことでもあるんだろう?」
「えっ?何でわかるの?!」
「おまえ、顔に出すぎなんだよ」
そう言うとおでこを指で弾かれた。

「痛いな〜、もう」
本当は痛くなんか全然ないんだけどね。

「で、何が聞きたいんだ?」

土浦くんはなんだかんだ言いながらも相談にのってくれちゃうんだよね。
だからついつい甘えちゃう。

「あのね、火原先輩の事なんだけど…」
「火原先輩?」
「うん。もうすぐ先輩の誕生日なんだけど…」

私は先輩とのやり取りを話した。

「でね、男の人って何したら喜ぶのかな?全然想像がつかなくって。土浦くんだったら
何してもらったら嬉しい?」
「何してもらったらって…そうだな。特に思い浮かばないが」
「え〜〜〜〜!土浦くんだけが頼みの綱なんだよ。ほら、考えて!」
「くっ…苦しいから、ネクタイ離せって!」

あら、私ったらつい熱くなって。土浦くんのネクタイを掴んでたみたい。
まぁ、気を取り直して。

「ごめん、ごめん。で、何か浮かんだ?」
「あぁ…なんだろうな」

暫らく土浦くんは考え込んだとおもったらニヤッと笑った。

「日野、良いのが思いついたぜ。コレなら先輩も大喜びだ」
「本当?!土浦くんありがとう!」


*****


放課後連れてこられたお店で、私は固まってしまった。

「ほら日野、ぼーっと突っ立てないでどれにするか選べよ」

どれにするかって…

「おぉ、コレなんかいいんじゃないのか?結構似合うぞ」

いや、その…

「こっちもなかなかいいぞ。コレなんかもいけそうだ」

なんで土浦くん嬉しそうなのよ…

「コレにしろって。俺からの誕生日プレゼントってことで、代金の半分出してやるよ」

…もう何も言えないよ。
私は土浦くんに渡された品物と代金の半分の金額を握り締め、ふらつく足取りでレジへと向かった…


****


「じゃあな、あとでしっかりと報告するんだぞ!」

土浦くん…
こんなにニコニコと嬉しそうにしているの初めて見たよ。

「これぞ男のロマンだぜ!頑張れよ、日野!」

そう言い残すと、土浦くんはそれはもう嬉しそうに帰っていった。

本当にコレで火原先輩喜んでくれるのかな?
ものすご〜く、不安なんですけど…


****


いよいよ誕生日当日。
学校が終り、私達は火原先輩のお家へ向かっている。

「香穂ちゃん、やっぱり重そうだよ…持とうか?」
「いえ!だ…大丈夫です!!大きいだけで、全然軽いんです!」
何度も心配して聞いてくれる先輩に、申し訳ない気持でいっぱいになりながらも
コレだけは絶対渡せない!と、私は例のモノが入った袋を抱きしめながら歩いている。

「ほら、先輩には大事なケーキを持ってもらってるんですから。こっちは気にせずに、ね?
あっ、ほら先輩の家見えてきましたよ!」

よかった〜、もう誤魔化さなくてすむよ。


****


通された先輩のお部屋。
とっても先輩らしくていつ来ても安心する。
飲み物を持ってきてくれた先輩に
「用意するので少しだけ待っていてください」
って、部屋の外に出てもらったんだよね。
さて、覚悟を決めて!

…本当にコレで喜ぶのかな?
うぅ〜〜〜、不安だ…

テーブルにはさっき買ってきた小さなケーキと、先輩が持ってきてくれたジュースを並べた。
私の用意もできた。
よ…よしっ、行くぞ!

「せ…先輩っ。どうぞ!!」

勢いよく扉を開け、先輩を部屋へ招き入れる。
運よく扉は内開き。私は扉で体が隠れた。
先輩が部屋に入った瞬間、私は急いで扉を閉める。

「香穂ちゃん、一体どうし…!!!!」

振り向いた先輩の顔が見る見るうちに真っ赤になって…
固まった。

うわぁ…やっぱ駄目だったのかな、コレ。

「かっかっかっ…香穂ちゃん?!」
「はいぃーーーーーっ!」
「その、格好は…」
「あ、あの…やっぱ駄目でしたか?」
「いや!そんな事ない!!全然ない!!むしろ嬉しい…っていうか、その…」

先輩は私の姿を見てまたまた真っ赤になってしまった。

私はフリルがいっぱいついてるエプロンをつけた、黒いメイド服を着ている。

「あの…男のロマン…ですか?」
「えぇーーーーーっ?!いや、その、ろっ、ロマンといえばロマンだけど…ね」

なんだかいたたまれなくなってきたよ。

「あの、やっぱり制服に着替えます…」

「いや!着替えなくていいよ!!て、いうか…むしろそのままだと嬉しい…です」

なんだか先輩の慌てぶり、凄いな。とりあえず、気に入ってはくれたんだよね?

「じゃ、お祝いしましょうか?」
部屋でいつまでも立ったままなのはおかしいし。
先輩に座るよう促し、私も隣にちょこんと座った。


「先輩、お誕生日おめでとうございます」
「あっ、ありがとう!」

土浦くんからアドバイスを貰ったとおり、ケーキを小さく切ると先輩の口元に持っていった。

「はい、先輩。あーんしてください」
「はいっ?!」
「だから、あーんです」
「あっ、あーん」

パクっとケーキが先輩の口の中に消えていく。


「美味しいですか?」
「うん、美味しい」

真っ赤になりながらも、先輩はにっこりと笑ってくれた。
あれ?口の横にクリームついてるよ。

「先輩、ちょっと動かないでくださいね」

私はちょっとだけ近付いてハンカチで口元についていたクリームを拭った。
なんだか先輩、さっきよりカチカチになってるような…

「か…香穂ちゃん!」
「はい、なんですか?」
「あっ、あの…」

バッタン。
あっ、誰か帰ってきたみたい。

「先輩、誰かお家の方帰ってきたみたいですね」
「…そうだね…はは、は…」

心なしか落胆しているような?どうしたのかな、先輩?

「先輩?どうかしましたか?」
「香穂ちゃん!」

先輩、すっごく真剣な顔して私の肩を掴んでる。

「今度、ふたりっきりの時にこの服着て!一生のお願い!!!」
「はぁ、わかりました」
「ありがとう〜〜〜〜」

なんだか少し涙ぐんでる?
そんなにこの服気に入ってくれたのかな?
だったら着てよかった♪

「じゃあ、今度のデートの時また持ってきますね!」
「うん!ありがとう、香穂ちゃん♪」

よかった〜、先輩ニコニコだ。

「先輩、はい。あーん」
「あーん♪」


****


こんなに喜んでくれるなんて、土浦くんに感謝しなくっちゃね♪




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火原先輩、お誕生日おめでとうございます!
会員no.1 さきとです。

お祝い…のはずなんですけどねぇ(苦笑)
すいません、生殺しで(汗)
コレはかなり辛いだろうかと…

一応、男のロマンってことで。
いや〜〜〜っ、石投げないでください(泣)
本当、ごめんなさい!!(逃)